「あ」
テスト勉強で遅くなってしまった私を、送ってくれるという名目で2人一緒に下校することになるのはいつものこと。
「何だコレ」
彼が靴箱の前で立ち尽くすのを見つけて、私もそれに近付く。
「果たし状か?」
そんなわけないじゃん、なんて思いながらも少し前の彼なら在り得る話なんだな、と気付いて
少し笑ってしまった。
「この天才に挑むなんて何処の阿呆だ」
荒々しく彼は手紙を開けるけど、私はもう気付いてる。
その内容に、彼が固まってしまうことを。
「あ」
それは、ラブレターだ。
入学してからもう一年と半年。
彼が本当にバスケットマンとして名が売れ出してから、彼のファンも出来てきたみたいで。
正直、少し、面白くない。
なんて自分の性格の悪さに少し凹む。
「何て書いてあるの?」
「いや…その、っすね…」
隠さなくったっていいのに。
「今日の放課後、教室で待ってる、って…」
面白くないのは、自分の勇気の無さも関係しているんだと思う。
私は、彼女たちのように素直に“好き”も言えないから。
友達から少しだけ飛び出した、この関係に甘んじてる。
「放課後…って、もう7時半だよ!?はやく行ってあげないと!」
「え?いや、行く…って」
「きっと待ってるよ!はやく、ね?」
無理にものわかりの良いコを演じてる。性格ブスのわたし。
本当は今すぐそんな手紙捨てちゃって、願ってるのに。
「…ウス。」
私が、今ここで一緒にいなければ、彼は飛んで教室へ向かっただろう。
彼は、優しいから。
「藤井さん、これ、ちょっと重いけど…」
教室へ走り出す前に、彼は私に手持ちのスポーツバッグをさしだした。
「持っててくれません?スグ戻ってきますから」
それだけ言って、大きな体は猛ダッシュで駆け出した。
私と彼のバッグ、二人きり。
そんな風に言われたら、悪いけど、悪いけど、
都合よく考えちゃうからね。
言ったとおり彼はホントにすぐ帰ってきて、少しだけ事のあらましを話してくれた。
「やっぱ男として、ちゃんと言わなきゃ、余計傷つけちめーますから」
「俺はルカワの阿呆とは違いますから、冷たくしたりはしないっスけど!」
爽快に話す彼を見ながら、ほっとした自分がいた。
まだ、まだ、大丈夫。
でも、それがいつかくるのは承知の事実。
彼はやっぱり、素敵だから。
「藤井さん」
「え?」
彼の話を右耳から左耳へ流していたことに気付く。
「帰らないんすか?」
スポーツバッグはもう彼の手に
「送ります、ウス」
まだ、まだ、大丈夫。
だから、もう少し、もう少し待って。
このままで。
その手紙の送り主が、いつか私になるよう
未来の自分に勇気を送る。