ただ、すきだと口に出来なかったのは、それで何かが終わってしまうこと。
でも本当は、そんなことしなくても おしまい は近かった。
鎧を脱ぐと、血の紅さがより鮮明になった。
己の体に突き刺さった矢は、恐ろしくて抜けない弱気な僕。
妹分が泣き叫び、弟分が『敵を討つ』と飛び出しても、貴方は目に見える反応を見せなかった。
まるでこうなることを、知っていたように。
己の立場を考えれば、いつでも覚悟出来ていたはずだ。戦場に行かない幸せな日々に、どうやら甘えすぎたみたいだ。
「大丈夫です。」
僕の大きな傷口を押さえながら、貴方は言った。
血液の出口を塞ぐように強く。
「さすがに、もう長くはないよ」
「そんな弱音、由貴光さまらしくありません」
ほんとは、すきな女性に体を触れられるだけで、緊張している僕なのに?
こんな事態にも、心拍数はまた上がる。
「弱音じゃない、真実だ」
自分の体から、紅いものが無くなっていくところを想像する。
おしまいが、怖い。
「大丈夫です。もうすぐ、とまります。もうすぐ」
手だけでなく、腕まで真っ赤に染め上げて貴方は言う。
「今まで奪った血と同じ分、奪われていくのだな」
何人を斬ったかなど、覚えているわけはない。
それでも、死ぬ寸前の一人一人の顔は決して忘れられない。
僕は、一体、いくつ おしまい を作ってきた?
おしまいは、怖い。
「螢」
僕のおしまいに、貴方は涙など流さない。
いつものように、凛々しく、美しい。
「螢」
どうせ、全て終わるのなら…、と考えたけど、
逝く寸前に見るのが、貴方の悲しい顔であってほしくないから
「螢」
一緒に地獄へ堕ちてくれないか、すら言えない弱気な僕。