「悪いけど、あんたの昔の男は、あたしが貰ったんだから」

十字架の前で、あたしは そう 告白した。


ただ一人の女を愛し続けて、年をとることも忘れた馬鹿な男を
好きになったあたしは、さらに馬鹿だと笑われる。
それでも、
すきだすきだと思う気持ちは
男の心の周りで動かないでいた氷を溶かしだして、
なんとかそれに触れるまでに至ったのだ。
それでも。
あたしに触れる指先は、
昔のなにかを、懐かしむ様に動く。


「悔しいだろ?悔しかったら、生き帰ってみろ」

あたしがあんたに勝てるのは
この体の温もりぐらい、
いま、男の前で 笑えることができるくらい。

あんたが時をとめたのなら、
そんなもの力ずくでこわしてやる。


「酷いだろ?酷いって思うなら泣いてみろ。
 泣き叫んでみろ」

それすらも、できないくせに。

あんたを愛し続けた男と、その男を愛してしまった女が
一体どれ程の涙を今までに流してきたか。
あんたは身をもって知る必要があるはずだ。


「あの人を あんたには二度と返さない」

死んだ後でも、あんたと一緒のところへは行かせない。
たとえ、そこが天国でも。


「後悔したいなら、生き帰ってからにしな」


十字架にかかった白い花のわっかが
笑うように揺れたから
あたしは更に気分が悪くなった。

 

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